童謡「赤とんぼ」のアクセントについて
- sanga29
- 12月14日
- 読了時間: 4分
更新日:12月17日
童謡「赤とんぼ」中の「あかとんぼ」のアクセントについて興味深い論文を見つけました。その全文は、CiNiiのサイトからPDFをDLすることができますが、先ずは、その要旨を紹介します。
(註:論文の要旨はいわばサムネイルの役目を果たしていますので、コピーペーストが可能です。)
日本語テクストの歌におけるアクセント位置に関する検討
―山田耕筰の『赤とんぼ』を中心として―
山本由紀子*
【要旨】
三木露風作詞、山田耕筰作曲の童謡『赤とんぼ』では、現在の「あかとんぼ」のアクセントと異なる旋律線の動きがある。この動きについて議論される理由としては、日本語テクストの曲ではアクセントに沿った旋律を作るという基本があるからである。この基本は山田耕筰によるアクセント理論によるもので、『赤とんぼ』は作曲当時の標準語アクセントに沿ったと言われている。しかし、巷間では他の説も取り上げられており、それらの説については検証されていない。そこで本研究ではまずその問題に関する巷間の説を整理し、検証した。
また、アクセント理論の背景として、山田の標準語へのこだわりがあった。「標準語」という用語には標準語普及運動が行われた延長線上で、方言排斥などがあったという歴史的経緯が含まれている。そのような背景や音楽表現上の限界などから、戦後にはアクセント理論への批判もあった。また、第一母語が方言である方言話者にとって共通語アクセントをもとに作られた歌は歌いづらいと言われている。現在の日本語テクストの作曲において、あえて共通語のアクセントに基づいて作るとは言われていないが、方言についての言及も見当たらない。本研究では方言も含めた日本語テクストの音楽表現の可能性について論じた。
日本語におけるアクセントは高低アクセントで、標準語におけるその種類は平板、頭高、中高、尾高の4種類です。
平板(へいばん)の言葉は、1拍めだけが低く、2拍め以降はすべて高い音で、途中で声の高さが下がらない「さくら」や「にほんご」です。
頭高(あたまだか)の言葉は、一拍めが最高音でその後下がる「まど」「めがね」「ねこ」などです。
中高(なかだか)の言葉は言葉の2拍め以降で音が高くなり、単語の最終拍(または助詞の前)で低くなる「たまご」「みずうみ」などです。
尾高(おだか)の言葉は、単独で発音すると平板に聞こえるが、助詞「が」「を」などが付くと、その直前で音が下がる「こころ」「むすめ」などです。しかし、助詞「の」が付くと平板化してしまうので、いよいよ平板の語と判別が難しいです。
(例)「心が痛い」と「心の痛み」の助詞の高さの違い
但し、最近は中高だった「自転車」が平板になるなど平板化が多く見られます。このように、言葉は変化するので、標準語のアクセントは「あかとんぼ」は「かと」が高い中高ですが、童謡「赤とんぼ」中の「あかとんぼ」は「あ」が高い頭高なので、作曲当時のアクセントは頭高だったのではないかという江戸なまり説があり、この論文はその検証を試みています。そのため、巷にある①関西方言説②シューマン説といった別の説につても検証することで研究を進めています。
そして、先ず①関西方言説について否定しています。根拠は、関西方言では、3拍めの「と」が高くなる中高であり、頭高の童謡「赤とんぼ」とは異なるからです。次に、石原慎太郎のエピソードを用いて、②シューマン説を取り上げ、その説を山田耕筰自身が「赤とんぼの幻影よサヨナラ」で否定していることを元に否定はしているものの耕筰がベルリン留学中に演奏や楽譜に触れている可能性も考えられることから、たまたま「赤とんぼ」のアクセントとシューマンの旋律が偶然結び付いた可能性は否定できないとしています。さらに、③江戸訛り説では、團伊玖磨が山田耕筰に直接聞いたところ、江戸時代から「あかとんぼ」は「あ」を高く発音していたと答えたというエピソードと共に、1951年版の「日本語アクセント辞典(日本放送協会)」には頭高と中高の二つのアクセントが併記されていることから江戸訛りを肯定しています。
ところで、この論文は「おわりに」で「音楽表現、音楽創作の新たな視点として様々な方言アクセントを考慮することは、その可能性を広げられると言える。」と結んでいます。サンガのかつての副指揮者「故 山本紘史氏」の曲には、一部筑豊弁のアクセントによるものと思われる音程の揺らぎがありましたが、もしかしたら、氏は既にこの境地に入っておられたのかもしれないと思った次第です。
福岡県飯塚市 混声合唱団 コーロ・サンガ



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